「外伝/番外編」解説

※「侍ジャイアンツ」外伝、番外編を解説

 

外伝「よみがえれ 侍」

 

●「よみがえれ 侍」

 

漫画:井上コオ先生

フロム・エー 1991年3月12日号掲載

 

「見てたかい蛮おじさん。今度は俺があんたの代わりに巨人のサムライに・・・侍ジャイアンツになってやるぜ!」

 

「巨人のサムライ」がマウンド上で力尽き、時は流れた・・・・そして1991年、藤田巨人のピンチに謎の選手が突如現れた。その背番号は「4」彼は一体何者なのか?

 

「よみがえれ 侍」は「侍ジャイアンツ」本編終了から17年後、意外にも株式会社リクルート発行の求人雑誌における企画連載「巻頭見開きコミック・感動最前線」の一つとして掲載された。

「たった2ページで感動を伝えたい」をキーワードに毎回取り上げる作品、作者が交代する企画で、所謂梶原一騎原作漫画と関連する作品は他に「夕やけ番長(作画:荘司としお先生)」のその後を描いた「12年目の夕やけ番長」が掲載されている。

発表された1991年には既に原作者は他界しており、本作は井上コオ先生単独による読み切り作品である。設定的な矛盾は無いが、本格的な続編として描かれた作品ではない。番外編と解釈するのも、原作漫画版と直結する続編と位置付けるのも読者の自由であるが、僅か2頁の中で「侍ジャイアンツ」ファンの見たかったもの、気になることが詰め込まれたサービス精神溢れる良作と言えよう。

 

舞台は発表年と同じく1991年、巨人対中日戦の九回裏、巨人1点リードしながらも二死満塁でバッターボックスには中日の主砲・落合というピンチの場面からスタート、巨人軍率いる藤田監督はリリーフに「番場」なる選手を指名、だがそんな名前の選手は観客も中日ナインも知らない。そして「ウォッス!」と現れる背番号「4」の男。彼は昨日入団して早速一軍登録されていたのだ。滅茶苦茶だが勢いを感じる設定である(笑)

ウォーミングアップを終え試合再開、男は「よっしゃ いくぜえ落合さん!!」とバンババーーン!と飛び上がり、上空から豪速球を投げ込む。「ハイ・ジャンプ魔球」の再現である!!さらに「大回転魔球」続けて「分身魔球」と連続披露し見事三振に打ち取った!!そして観客が思い出す「あの魔球はたしか昔巨人にいた番場蛮があみだしたもの!」と。

その観客たちの様子を見つめる一人の男がいた。彼の名は「八幡太郎平」・・・かつて巨人のサムライと呼ばれ、巨人のために殉じたサムライ・番場蛮の相棒である。ここで僅か2コマであるが八幡が登場。外見は本編と殆ど違いは無いが、歳を重ね以前より落ち着いた印象である。八幡の台詞からマウンドに立つ男は番場蛮の妹・ユキの息子であり、蛮の甥にあたると判明。そして、彼の投げた「魔球」の数々は蛮の生涯の友である八幡が教えたものだった。

マウンド上の番場は亡き叔父に向け、今度は俺があんたの代わりに巨人のサムライに・・・侍ジャイアンツになってやるぜ!と誓うのだった。

 

企画連載故に極端に頁が少ないため単純明快なストーリーだが、限られた頁の中で見せたいものは全部見せるとばかりに魔球は三種類登場、蛮に代わる瓜二つな主人公、その後の八幡とポイントを押さえた内容は嬉しい。この作品をベースとした本格的な続編を読んでみたいファンは大勢いるのではないか。ファンの想像をかきたてる魅力的な短編である。

 


番外編「生活侍」

 

●「生活侍」

 

漫画︰井上コオ先生&ヤングと生活社

フロム・エー 1993年5月18日号~1994年4月5日号連載

全39回

 

本作は「よみがえれ 侍」と同じく求人誌に毎回1頁、フルカラーで連載された。その内容は「侍ジャイアンツ」との直接の繋がりはない番外中の番外編。友情が丘団地に住む我らが番場蛮が高額商品を売りつけようとする悪の組織「ハイテッカー」から日常生活において役立つアイデアを駆使して団地を守るという内容である。原則一話完結のシンプルな内容でギャグ色が非常に強い。好評だったようで第16回から2頁構成に変更されている。眉月、ウルフもハイテッカーの一員として登場し、団地内においてミニマムな戦いを繰り広げた。尚本作は野球漫画ではなく、あくまでも「侍ジャイアンツ」のキャラクターを使った別作品である。特殊な作品故に残念ながら単行本化はされておらず、現在読むことは困難になっているが、その暴走気味の内容とフルカラー掲載は魅力的であり、今後何らかの形で読むことが出来ることを願う。

 

各話解説 ※文字をクリック


番外編「バイト侍」

 

●「バイト侍」

 

 漫画︰井上コオ先生&ヤングと労働社

 フロム・エー 1994年4月12日号~1994年11月29日号連載

 全28回

 

「バイト侍・番場蛮は改造人間である。善良なアルバイターの労働意欲を削ぐ秘密結社クビクビ団に捕われ、バイト侍として改造手術を受けている最中に逃亡したのだ。記憶を失い自分が元巨人軍のエースであったことも思い出せない蛮にクビクビ団の魔の手が迫る!闘えバイト侍!総てのアルバイターのために!」

本作は「生活侍」完結翌週からスタート。何と主人公は改造人間という設定である。前作との繋がりはなく、番場蛮のキャラクターのみ引き継いだ新たな世界観の作品である。毎週1頁、フルカラー連載で、今回は掲載誌がアルバイト情報誌であることを意識した労働基準法を絡めた内容となった。各話の基本パターンは劣悪な労働環境に苦しむアルバイターを蛮が労働基準法を根拠に救う内容で、ギャグ色は前作よりやや抑えられている。本作も残念ながら単行本化されておらず、今後の刊行に期待したい。

 

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