「必殺のクロスカウンター」解説

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「サブ・・・ボクシングってすばらしいもんだな!」

 

【物語】

反則交じりのラフな試合スタイルと斜めに構えた態度でボクシングジム内で孤立した少年、サブはそのことを咎められ、ジムを飛び出してしまう。それを見つめる一人の男、彼の名は黒木。

サブと接触した黒木は、自分がかつて「タイガー黒木」と呼ばれ、伸びのある右ストレートで次々に相手を倒した強打者(ハードパンチャー)だったこと、チャンピオンを目前にして八百長試合を持ちかけられ、それを拒否したために右腕を潰されボクサー生命を絶たれた過去を語る。黒木の右腕は義手であった。

彼はサブに「わたしといっしょにボクシングをやろう!!やつらをみかえしてやるんだ!」と誘う。だがサブは自分が反則頼りでなければ勝てないことを自覚していた。自分に才能はないと・・・だが黒木は自分と組めば絶対に勝てるという。

 

それから一か月後、黒木の優れたコーチによりサブは成長し、待望のデビュー戦をむかえた。黒木は相手の防御の未熟さを瞬時に見抜き、スタミナを消耗させるよう指示、まんまと作戦は的中しKO勝ちをおさめる。四回戦レベルの試合では相手側の研究は殆どしない例が多い中、黒木は徹底的に相手の弱点を研究し、サブの「なまくらパンチ」でも通用する状況を作り上げたのだ。

だが試合後、黒木とサブのもとに他ジムの男たちがやってきた。その男たちこそ、かつて私刑により黒木の右腕を潰した連中であった。黒木はサブを控室から出し、ジムの繁栄を優先し八百長を重ねたお前たちに復讐すると宣言する。姿を消した5年の間にボクシングを研究し、必ず勝てる理論を完成したと。

忘れ物を取りに控室に戻ったサブは偶然それを耳にしてしまい、復讐の道具として利用されたにすぎない事を知りショックを受ける。グローブを投げ捨てるサブだが、いつのかにか私怨など忘れてボクシングを愛していることに気づき、再びリングに立つのだった。

その後もサブは連勝を重ね、半年後、ついに「奴ら」は挑戦してきた。「新人殺し」の異名をもつテクニシャンをぶつけてきたのだ。黒木は復讐の足がかりとして受けて立つと返答。そして試合当日・・・

「やっとここまで来たんだ。ボクシング界から見捨てられた我々でも、もう一度夢をみられるところまでな・・・」その黒木の言葉に心の底では夢を自分に託していると感じたサブは「勝ち目はないから早い回は逃げろ」という指示に対し、「おれはあんたのロボットじゃない!」「ボクシングをそんなふうにしか考えないあんたや奴らに、おれがこの腕で考えなおさせてやる!」と拒否!

「サブのやつ・・・わざと負ける気だな」とセコンドを放棄し立ち去る黒木だが、場内から大きな歓声が聞こえた。サブは逃げ回るのではなく、テクニック、キャリアとも数段上の実力者に一歩もひけをとらず、かつて黒木が教えた相手の攻撃を右に避けながらのカウンター戦法をとっていたのである。焦った相手が反則攻撃を仕掛け左目を負傷してしまうが、サブの心は折れない!その姿を見て黒木は思わず「サブ、右クロス」と叫ぶ!!

見事クロスカウンターを決め相手はダウン。黒木は再びセコンドに戻り、右ジャブ、ボディーへの一発、そしてアッパーでサブは見事勝利をつかむ!!

 

その場を立ち去ろうとする黒木にサブは声をかける。黒木は暫くの沈黙の後、笑顔で答える。「サブ・・・ボクシングってすばらしいもんだな!」

ボクシングの本当の素晴らしさを知ったサブと黒木、ふたりはこれからも勝利の道を歩き続けるだろう。

 

【解説】

本作は井上コオ先生のデビュー作であり、初掲載の喜びがページから伝わってくるような作品である。そしてこの約2年後に「侍ジャイアンツ」作画担当として白羽の矢が立つことになる。

サブをスカウトした際の黒木のいう「やつら」とは、サブにとっては飛び出したジムの連中のことを指すが、この時点での黒木の真意はそうではない。サブを見て「この少年ならつかえる・・・」と一人呟いているとおり、当初は自らの復讐のためにボクシングとサブを利用しているにすぎなかったが、ボクシングを純粋に愛するようになったサブに心を動かされ、復讐心を捨てセコンドから指示する姿は熱い。「侍ジャイアンツ」との直接の接点はないが、勢いのある作画と展開、爽やかなラストは実に週刊少年ジャンプらしい好編であり、後に作画担当に選ばれたのも納得である。

単発の読切作品ゆえに単行本に収録されたことは無く、今後何らかの形で読めるようになることを願う。